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内藤家伝来の武具甲冑類
甲冑
延岡市に所蔵されている具足15領と兜3頭は、いずれも江戸時代初期から幕末期までの譜代大名内藤家に係わるもので、各時期に流行した様々な形式の当世具足が揃っている。
このうち所用者が伝えられる具足は9領で、四代家長、六代義泰(義概)、義泰の子義英、七代義孝の子義覺、九代政樹、十六代政擧及び内藤家の重臣内藤治部左衛門のものが各1領、七代義孝所用のものが2領所蔵されている。
所用者不明の具足は象嵌の施された鉄錆地二枚胴、腰漆塗五枚胴、和製南蛮胴、鉄横矧黒漆塗二枚胴、兜に白熊の毛を付けた胴丸具足、十六代政擧の生家掛川太田家旧蔵と伝えられる胴丸の復古鎧の6領で、それぞれに特徴があり作りも優れている。
兜3頭は鉄黒漆塗七十四間小原兜、鉄黒漆塗六十二間筋兜及び頭頂に黒漆塗りの革でタイラギ貝を意匠化した鉄黒漆塗頭形兜で、星兜は五代忠興、筋兜は七代義孝、頭形兜は義英が所用したと伝えられるものである。
内藤家伝来の具足、兜及び内藤治部左衛談門具足は、全般的に保存状態も良好でいずれもが大名家あるいは重臣のものとして相応しいものであり、武具資料、歴史資料としての価値が高い。
また、大名家関係の甲冑類がこれだけの数量まとまって残されている例は少なく貴重である。
No. | 甲冑名 | 数量 |
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1 | 伝内藤政長所用 紅糸縅胴丸具足 | 1領 |
2 | 伝内藤義泰所用 紫糸縅二枚胴具足 | 1領 |
3 | 伝内藤義英所用 紺糸縅二枚胴具足 | 1領 |
4 | 伝内藤義孝所用 紺糸素懸縅二枚胴具足 | 1領 |
5 | 伝内藤義孝所用 紫糸縅二枚胴具足 | 1領 |
6 | 伝内藤義覺所用 紅糸縅二枚胴具足 | 1領 |
7 | 伝内藤政樹所用 浅葱糸縅二枚胴具足 | 1領 |
8 | 伝内藤政擧所用 紫糸素懸縅二枚胴具足 | 1領 |
9 | 内藤家伝来 紺糸縅二枚胴具足 | 1領 |
10 | 内藤家伝来 萌葱糸縅五枚胴具足 | 1領 |
11 | 内藤家伝来 浅葱糸素懸縅二枚胴具足 | 1領 |
12 | 内藤家伝来 紺糸縅胴丸具足 | 1領 |
13 | 内藤家伝来 青糸縅(松葉糸縅)二枚胴具足 | 1領 |
14 | 内藤家伝来 紺糸縅胴丸具足(伝太田家旧蔵) | 1領 |
15 | 伝内藤治部左衛門所用 紺糸縅二枚胴具足 | 1領 |
16 | 内藤義英所用 タイラギ兜 | 1領 |
17 | 内藤忠興所用 鉄黒漆塗七十四間小星兜 | 1領 |
18 | 内藤義孝所用 鉄黒漆塗六十二間筋兜 | 1領 |
面箱
土持氏の時代に宇佐八幡宮から申し受け、土持氏滅亡後も代々の城主に神面として受け継がれてきたとされる白式尉、黒式尉の面が納められていた面箱で、面とともに内藤家に伝来したものである。
面の由来を記した「延岡伝書」には高橋元種の時代(1587-1613)「面が損傷した ので山城国醍醐の面打角坊に仕直しを頼んだが、角坊は容易ならざる面なので、仕直しは出来ないと傷んだ箇所のみ修理して納めた。
それから元極はますます面を大切にした」とあり、面箱は元極が面修理の際、新調したのではないかとも考えられている。
面箱は、総体を黒漆塗りにし金平蒔絵、絵梨子地に針描の技法を交えて檜垣と桐唐草文様を表したもので、蓋裏にも同技で桐唐草文様を描いている。
合口は錫の覆輪、箱の両側面には金銅製の桐紋紐金具を付ける。
桐製の外箱は内藤家十四代政順のときに作製されたもので底裏に「天保五甲午年三月出来/ 指物師/北町小嶋屋/喜七」の墨書がある。外箱には面箱のほか烏帽子、中啓、鈴袋に「天保五甲午年/三月」の墨書のある三番叟鈴、桃山から江戸初期のもの とみられる面袋などの能道具が収納されている。
この面箱は内藤家の能楽資料として貴重なだけでなく、桃山時代の平明で洗練された高台寺蒔絵の特徴をよく表した優れた漆工芸品として美術的価値が高い。
No. | 面箱名 | 数量 |
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1 | 内藤家伝来 檜垣桐唐草蒔絵面箱 | 1合 |
馬具
明治3年に作成された内藤家「御召御武具台帳」には24背の鞍と33双の鞍が所蔵されていたことが記されているが、現存するものは鞍13背と鐙10双である。
内藤家の鞍・鐙は蒔絵、彫漆、螺細、皺革、象嵌、青貝と種類も多彩であり、蒔絵では真向兎紋桜花散蒔絵鞍、軍配采配文鞍・鐙、諌鼓鶏蒔絵鞍・鐙、鉄線文蒔絵鞍、下がり藤紋破七宝蒔絵鞍、下がり藤紋花菱繋蒔絵鞍、矢屏風踏蒔絵鐙が意匠、技巧ともに優れている。
彫漆では外側の堆朱と内側の黒漆に施された沈金との対比が美しい獅子牡丹文鞍、螺細では薄貝の技法で雲龍を表した雲龍螺細鞍が優れた工芸技術を示している。
木瓜文皺革包鞍・鐙は総体を黒皺革で包み高上げを施して木瓜紋を踏絵で表したもので、付属品も一式揃っており、馬具資料として貴重である。
象嵌鐙は鯱濤文銀象嵌鐙、下がり藤象嵌鐙、竹虎据文鐙の3点が現存するが、いずれも優れた出来であり、特に「岩城住正久作之」の銘がある鯱濤文銀象嵌鐙は、岩城平で象嵌鐙が製作されたことを示す重要な歴史費料でもある。
また、青貝散鐙は黒漆上に散りぱめられた青貝の光沢と踏み込みのコントラストが美しい鐙である。
内藤家伝来の鞍、鐙のうち鞍・鐙3具、鞍6背、鐙5双は工芸的にも優れ、それぞれが大名家の馬具資料として貴重である。
No. | 馬具名 | 数量 |
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1 | 内藤家伝来 軍配采配蒔絵鞍 | 1具 |
2 | 内藤家伝来 軍配采配蒔絵鐙 | 1具 |
3 | 内藤家伝来 諌鼓鶏蒔絵鞍 | 1具 |
4 | 内藤家伝来 諌鼓鶏蒔絵鐙 | 1具 |
5 | 内藤家伝来 木瓜紋皺皮包鞍・鐙ほか馬具一式 | 1具 |
6 | 内藤家伝来 真向兎紋桜花散蒔絵鞍 | 1背 |
7 | 内藤家伝来 獅子牡丹文彫漆鞍 | 1背 |
8 | 内藤家伝来 鉄線文蒔絵鞍 | 1背 |
9 | 内藤家伝来 下がり藤紋破七宝繁蒔絵鞍 | 1背 |
10 | 内藤家伝来 雲龍螺細鞍 | 1背 |
11 | 内藤家伝来 下がり藤紋花菱繁蒔絵鞍 | 1背 |
12 | 内藤家伝来 鯱濤文銀象嵌鐙 | 1背 |
13 | 内藤家伝来 下がり藤紋銀象嵌鐙 | 1双 |
14 | 内藤家伝来 竹虎据文鐙 | 1双 |
15 | 内藤家伝来 矢屏風蒔絵鐙 | 1双 |
16 | 内藤家伝来 青貝散鐙 | 1双 |
軍配
日輪文軍配は鉄製帆形で柄を鮫皮着、浅糸つまみ巻の太刀柄とした違例の少ないもの。
羽の部分は金箔押で、口輸部分を朱で表している。
茎には17世紀半ばの刀工「伊賀守包道」の銘がある。
日月文軍配は木製で、表は銀泥地に朱で日輪、裏は金箔地に銀泥で月輪を表している。
この軍配は内藤家「御召御武具台帳」に蒲生氏郷御持の写し、作者は槍師遠藤七左衛門と記されている。
黒漆塗軍配は総体を黒漆塗にし、表に「不制干」「天地人」の文字、裏に二十八宿を金平蒔絵で表した木製帆形の軍配である。
軍配は軍の配置、進退を指揮する道具であるが、この三握の軍配はいずれも保存状態が良好で、江戸時代の内藤家の武具資料として費量なものである。
No. | 軍配名 | 数量 |
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1 | 内藤家伝来 鉄姓日輪文軍配 | 1握 |
2 | 内藤家伝来 黒漆塗軍配 | 1握 |
3 | 内藤家伝来 日月文軍配 | 1握 |
采配
内藤家の采配のうち保存状態が良好なものは7握で、柄を八角にしたもの、蒔絵を施したものなどそれぞれ意匠が異なっている。
采の色は白と朱と銀の三種が所蔵され、白采配は(1.)十一代政脩所用の柄に藤文蒔絵が入ったもの(2.)木製黒漆塗柄、(3.)黒漆塗八角柄の3握。朱采配は(4.)赤銅製柄のものと(5.)木製柄に拭漆を施した2握。銀案配は(6.)黒 漆塗八角柄と(7.)木製黒漆塗柄の要所に腰巻を施した2握がある。このうち(1.)は黒漆塗りで蓋表に蒔絵で藤紋を表した采配箱、(2.)と(5.)は 桐九曜下がり藤紋蒔絵の采配箱、(3.)には黒漆塗で蓋表に「武業」の文字を金平蒔絵で表した采配箱が付属している。
軍陣の指揮用具である采配は大名家の重要な武具のひとつであり、内藤家伝来の7握の采配はいずれも江戸時代の歴史費料として貴重なものである。
No. | 采配名 | 数量 |
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1 | 内藤家伝来 藤文蒔絵白采配及び下がり藤紋蒔絵采配箱 | 1握 |
2 | 内藤家伝来 白采配及び桐九曜下がり藤蒔絵采配箱 | 1握 |
3 | 内藤家伝来 朱采配及び黒漆塗采配箱 | 1握 |
4 | 内藤家伝来 黒漆塗八角柄白采配 | 1握 |
5 | 内藤家伝来 銀采配及び桐九曜下がり藤紋蒔絵采配箱 | 1握 |
6 | 内藤家伝来 黒漆塗八角柄銀采配 | 1握 |
7 | 内藤家伝来 朱采配 | 1握 |
刀筒
内藤家伝来の刀筒3口は乾漆あるいは紙胎の素地に蒔絵で紋を表したもので、いずれも江戸時代18世紀頃のものと思われる。
筒長が114.0cmある桐九曜下がり藤紋散蒔絵刀筒は総体を詰錫梨子地にして金薄肉高蒔絵と絵梨子地で表した桐紋、九曜紋、下がり藤紋を全体に散らしている。
唐草桐九曜九曜下がり藤紋刀筒は総体を黒漆塗りにして平蒔絵と絵梨子地で唐草文様を全体に表し、唐草文様の間に桐紋、九曜紋、下がり藤紋を散らしている。
藤桐九曜剣木瓜紋散蒔絵刀筒は総体を錫梨子地にして、金銀薄肉高蒔絵、銀平蒔絵で桐、九曜、剣木瓜、下がり藤紋を全体に散らしている。
唐草桐九曜九曜下がり藤紋刀筒及び藤桐九曜剣木瓜紋散蒔絵刀筒はともに長さ90.0cmで脇差用のものである。
3口の刀筒は内藤家伝来の武具資料として貴璽なもので、漆工芸品としても優れている。
No. | 刀筒名 | 数量 |
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1 | 内藤家伝来 桐九曜下がり藤紋散蒔絵刀筒 | 1口 |
2 | 内藤家伝来 唐草桐九曜下がり藤紋散蒔絵刀筒 | 1口 |
3 | 内藤家伝来 藤桐九曜剣木瓜紋散蒔絵刀筒 | 1口 |
鉄砲筒
内藤家伝来の鉄砲筒は2種31口が所蔵されている。いずれも乾漆の素地に蒔絵を施したものである。
桐九曜下がり藤紋散蒔絵散鉄砲筒は総体を詰錫梨子地にし、桐紋、九曜紋、下がり藤紋を表している。
錠金具は真鍮製、鯨髭製と思われる把手が付いている。
唐草桐九曜下がり藤紋散蒔絵鉄砲筒は2口所蔵されている。
いずれも総体を黒漆塗りにして、金平蒔絵と絵梨子地の技法で唐草を全体に表し、唐単文様の間に桐と九曜、下がり藤紋を敵らしている。
刀筒のひとつにもこれと同技同文のものがある。
内藤家伝来の鉄砲筒は漆工芸的にも優れたもので、大名家の武具資料として貴重なものである。
No. | 鉄砲筒名 | 数量 |
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1 | 内藤家伝来 桐九曜下がり藤紋散鉄砲筒 | 1口 |
2 | 内藤家伝来 唐草桐九曜下がり藤紋散鉄砲筒 | 2口 |
空穂
2口所蔵されている空穂は、いずれも乾漆または紙胎の楽地を黒漆塗りにして金平蒔絵で紋を表したもの。
下がり藤紋散蒔絵空穂は内藤家の家紋である下がり藤紋、桐下がり藤紋蒔絵空穂は下がり藤紋と桐紋を意匠に用いている。
桐紋は内藤家の武具によく用いられているが、これは四代政長が豊臣秀吉に桐紋入りの鉄砲袋を賜ったことに由来する。
2口の空穂は、いずれも江戸時代の武具資料として貴重なもので、工芸的にも優れたものである。
No. | 空穂名 | 数量 |
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1 | 内藤家伝来 下がり藤紋散蒔絵空穂 | 1口 |
2 | 内藤家伝来 桐下がり藤紋蒔絵空穂 | 1口 |
熊毛槍鞘
10数点所蔵されている内藤家伝来の槍鞘は、すべて十文字鎌形あるいは円筒形である。
ほとんどが木製で、十文字鎌形のものが黒の叩き塗、円筒形のものが白の叩き塗であるが、このなかに大名行列に使用されたと思われる大型の熊毛製槍鞘が2口含まれている。
ひとつは、十文字鎌形で高さ42.0cm、幅37.0cmある熊毛槍鞘で、基部に錫製の金具をはめて熊毛を全体に密植している。
もうひとつは高さ38.8cm、径8.8cmの円筒形で白熊あるいは月の輪熊の喉部のものと思われる白毛を全体に密植している。
この2口の槍鞘は保存状態が良く、大名家の儀仗的な道具として歴史的価価が高い。
No. | 槍鞘名 | 数量 |
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1 | 内藤家伝来 熊毛槍鞘 | 1口 |
2 | 内藤家伝来 白熊毛槍鞘 | 1口 |