2月26日にカルチャープラザのべおかハーモニーホールで開催された延岡駅周辺整備デザイン監修者公開プレゼンテーションの模様(動画)、候補者からの提出資料及び審査講評文を掲載いたします。
延岡駅周辺整備デザイン監修者審査委員会
委員長 内藤 廣
ともかく熱の入ったプレゼンテーションだった。まずは、審査委員の、とりわけわたしの変則的で意地悪な質問に、いやな顔ひとつ見せずに答えてくれた応募者の方々に御礼申し上げたい。
プレゼンテーションは公開で行われたので、なんといっても市民の方々に当人の人間性を知ってもらう必要があった。市長もはじめから最後まで聞いておられた。計画的なアイデアは、すでにパネルで提出していただいているので、そのあたりのクセや好み、思考方法はすでに分かっている。大切なのは、まちづくりのなかで役割を担う人だから、その人間性と地元の人達との相性を計る必要がある。どんなに優れたアイデアや才能を持っていても、地元の人達との相性が悪ければ、まちづくりでは定番のいくつもの障害を共に乗り越えていくことが出来ない。
また、状況に合わせて自分のアイデアを柔軟に合わせていくことも大切だ。自分のアイデアに固執して、相手のこと、地元の事情に対応できない人でも困る。さらに、矛盾したことを言うようだが、なんでも周りの人の言うことを聞いてしまう人でも困る。そこにはやはり、その人なりの信念がなければならない。それがない人は、あるいはそれが見えにくい人は、結局、地元の人からは信頼されないだろう。ここの案配が難しい。
審査は、提出していただいたものを素材に、そんな微妙な人間性の相性を計るものだった。
金髪ならぬ銀髪で登場した山代さんには、市民の方々は驚いたろう。提案内容の生真面目さ、繊細さ、その風貌との対比が面白かった。コンテナで街を変えていく。これは単なるアイデアだろう。要するに、無理せず小さな単位を積み重ねるように街を作っていこう、という提案だ。内容と姿勢を理解すれば、好ましい提案といえる。しかし懸念されるのは、今回のコンペは、まちづくりのテイストをコントロールしていくデザイン監修者を選ぶという企画である、というところだ。ここには、他の建築家やデザイナーを巻き込んでいった場合、山代さんの提案では融通が利かないように思えた。
次に登場したのが乾さん。提案書に描かれたイラストに合わせて、髪を切ってきたという。やや緊張気味だが、並々ならぬ意気込みが感じられる。乾さんは、我が国建築界の中堅を担う建築家だ。明快で華麗なデザインで知られる。ところが提案書では、都市計画諸制度に対する考え方やまちづくりに対する取り組み方が述べられており、プレゼンテーションでもその説明が中心で、意表を突かれた。説明文の横に添えられた乾さん自身が描いたユーモラスなイラストが、わずかに個性を主張しているに過ぎない。
しかし、大きな意味での提案内容は、他のどの応募者とも異なった。商業的な中心は川中あたりを中心に考え、町外れともいえる駅周辺は、緑豊かな閑静な玄関口として整備してはどうか、というものだ。これには、地元審査委員から多くの反対が出ると思ったが、むしろ賛意を示す方が多かった。全国的に見ても、駅周辺開発の新しい提案である。
プレゼンテーションでの乾さんの受け答えもハッキリしていて、個性的にも際立っていた。受け答えで特に印象的だったのは、これまで建築家としてクライアントを満足させるという意味での私的な部分が九割で、周囲の街に対してどうかという意味での公的なものは一割ぐらいだったが、今回の取り組みではその割合を逆転させて考えたい、と発言したことだ。正解である。われわれが求めていたのは、まさにこのスタンスだ。この機会を通して、多くの人が乾さんに好感を持ったのではないかと思う。
次の提案者は、熊本大学の星野さん。長身で優男、この日のために新調したスーツをバリッと着込んでプレゼンテーションに臨んだ。熊本駅周辺の街づくりに対する取り組みを参照しながら、街づくりのソフトウェアをどのように構築していくのかを語った。丁寧な説明だった。おそらく、今回の応募者のなかで、街づくりの実態と難しさをもっともよく知っているのは星野さんだろう。それだけに大胆になれなかったのかも知れない。もう一つ踏み込んでほしかった。ましてやデザイン監修者の選定である。この人なら街を変えてくれる、というこの街に現在漂っている期待感に答える内容にはなっていなかった。
休憩を挟んで田井さん。場馴れした感じの要点を押さえたプレゼンテーションだった。質問にもテキパキと要領よく答えてくれた。街全体をよく調べており、パネルも内容的によくできていたし、周到な計画立案だと審査委員誰もが感じたはずだ。後の審査会では審査委員から、優等生の案との声も上がった。これは地方都市にあってはけっして褒め言葉ではない。その人との距離感を表明しているからだ。田井さんの提案もプレゼンテーションもなかなか優れたものだったが、この街の底に流れる気質を読み損なったかも知れないと感じた。
最後は西田さん。この頃になると、会場もプレゼンテーション慣れしてきて、すっかりリラックスしている。それに反して、喋る当人はほとんど緊張の極地で登壇した。今回の応募者のなかでは、もっとも若い三十代半ば。無理もない。具体的な構想をできるだけ避け、まちづくりのソフトウェア構築に主眼を置いた提案だ。他の提案者のなかにもあったスタンスだ。街造り塾なるものを作ろうとしていること、西田さんの周辺に専門家を置いて、そのネットワークで街を作っていこうとしていること、具体的な現れとしては、ミクロな広場空間と緑を繋いで街のイメージを作っていく、という提案が西田さんなりのアイデアだった。何となくうまくいきそうな感じもするのだが、もうひとつ確信が持てなかった。人的なネットワーク。それはそんなに信用できるものなのだろうか。デザイン監修者として、そうしたネットワークの中心に座るはずの西田さんの芯にあるものが見えなかった。
プレゼンテーションが終わって別室で行われた審査は、票を入れて決めることを避け、あくまでも議論して決めることになっていたので、全員がそれぞれの印象を述べるかたちで進められた。それぞれ感じたことを率直に述べあったのだが、面白いほど審査委員の意見の違いはなかった。乾さんの個性と考え方に好感を表明する意見が大勢だった。審査委員会全員の合意で、乾さんを最優秀とした。次点を誰にするかは意見が分かれた。山代さんか西田さん、どちらにするかということになったが、一部の委員から西田さんに対する否定的な意見が出たので、山代さんを次点とすることにした。
楽しく和やかな審査だった。よい人を選べたのではないかと思う。後は、延岡の街の方々が、乾さんをどのように盛り立てていくかだ。乾さんは彼女なりのやり方で延岡を理解しようとした。今度は、街の方々が乾さんを理解する番なのかも知れない。
※掲載順は当日の発表順です。(敬称略)
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