300年以上の歴史を誇り、延岡の重要な観光資源でもある伝統的漁法の「鮎やな」。
かつては「鮎やな」と言えば延岡と言われていましたが、やなの架設数は、平成21年から1カ所のみとなっています。
漁獲量の減少や利用者の伸び悩みなどの要因で存続が危ぶまれる中、保存に向けた取り組みが始まっています。
延岡の「鮎やな」は、環境省が選んだかおり風景百選にも選ばれているように、秋の風物詩の一つといえます。
延岡とアユに関する歴史は古く、平安時代には、宇佐宮が、臼杵庄・岡富別府(延岡市域周辺)にアユを献上させていたことが確認できます(『宇佐宮神領大鏡』より)。このことから、当時は、延岡のアユが地域の名産品として取り扱われていたと考えることができます。
江戸時代には、鮎やなに関する資料が確認されます。
延岡の鮎やなに関する最も古い記述として、元禄6年(1693)に三輪村にやなが架けられていたことが記されています(『九津見家文書』より)。しかし、この記事は、前年に架けていたやなの破損に関する内容であり、元禄6年以前より五ヶ瀬川で、やな漁が行われていたことは言うまでもありません。
文久3年(1863)、井伊直弼の姉であり、延岡藩内藤家第6代藩主・政まさより順の妻であった内藤充真院繁子の随想「五十三次ねむりの合の手」では、現在の松山町に架けられていたやなの画が描かれています。
かつては、岡元、三輪、三須、松山などにも架けられていた「鮎やな」ですが、アユの漁獲量減少や河川環境の変化、利用者の減少により、やな数は年々減少しています。平成18年まで3カ所架かっていましたが、平成21年には1カ所となっています。
「鮎やな」は、成長したアユが西風が吹くころになると、産卵のために川を下るアユの習性を利用する伝統的な漁法です。

私たちがこの季節に何気なく食べているアユ。では、どのような生活を過ごしているのでしょうか。アユは一般的に次のような一生を過ごします。

鮎やなづくりに携わり約43年。高橋生矢さんに鮎やなの魅力や苦労を伺いました。
高橋さんが今回こだわったことは、主に2つあるようです。「まずは、鮎やなの景観です。曲線を描く昔ながらの鮎やなを再現し、訪れた人が懐かしいと思ってもらえるような、やなを再現することに力を入れました。また、縄や木、竹、石を入れているカマスまで見栄えがするようこだわりました」と話します。もう一つは、「アユがかかるための仕組みづくりです。近年、アユの漁獲量が減少しています。先ほど曲線を描くやなのことを話しましたが、これは、中央に水が集まりアユが落簀(おてす)に落ちやすくなる作用もあります。また、落簀の手前の中央に石が配置されていますが、この並べ方も40年前の当時を思い出しながら配置しました。アユは、非常に頭が良く、警戒心の強い魚です。原点に返るやなづくりを心がけました」と思いを語ります。
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| 落簀に落ちる前の石の配列がアユの漁獲量を左右します | 中央の負荷のかかる部分に蛇籠と呼ばれる籠に重しを置きます | 中央にある落簀の角度を上げ、アユが逃げるのを防ぎます |
「来ていただけるお客さんに楽しんでもらいたく、約70mの桟橋も作りました。ぜひ、伝統やなを見に来てください」とやなへの自信ものぞかせました。
「昔と比べると見る影もありません。私たちが小さなころは、尺アユがたくさんおり、川で遊ぶのが楽しかった」と話すのは五ヶ瀬川漁業協同組合長の佐藤巧さん。
五ヶ瀬川水系のアユの漁獲量は、昭和47年の約85トンをピークに減少の一途をたどっています。昭和50年代は、30トン~50トンで推移。昭和60年代に入るとピーク時の7分の1程度、平成21年に関しては、約10分の1に漁獲量が減少しています。「アユの漁獲量は、天候にも大きく影響されますが、ここまで減少したのは、明らかに山や川の自然環境が変わったからです」と佐藤さんは話します。
アユの漁獲量は年々減少しています。
鮎やなを架けた高橋さんや五ヶ瀬川漁協の佐藤さん、北川漁協の長瀬さん(下記参照)に減少している理由をを伺うと、皆さんから共通して返ってきた答えは、山や河川などの自然環境の悪化であると言います。
木は、水を吸う高い保水力を持っていますが、経済の発展とともに広葉樹や落葉樹などの山林は伐採されてきました。そのため、山が持つ保水力が低下。大雨が降ると、山が水を保水できず、鉄砲水となり、土砂を運んできます。
土砂を運んで来る理由はこれだけでなく、護岸工事や林道・作業道の整備による土砂、伐採後放置された山林による土砂が川に流れ出ます。
この結果、土砂が川に堆積。アユがえさとするコケが石に付着せず、生育状況が悪くなります。土砂の堆積などは、川の流れをゆるくし、急流を好むアユにとっては、生息しづらい環境になります。
延岡市内の各漁協は、稚魚の放流などを増やしてはいるのですが、河川環境が激変しているため、アユが減っているのです。

延岡市北部の雄大な山あいを流れる北川。アユを始めとするさまざまな種類の生き物が生息しています。
この北川流域でも近年、山の荒廃が進んでいます。河川工事による河畔林の消滅や林道・作業道の整備による谷川の変貌。また、木材の伐採や伐採後放置された山林による土砂が河川へ流入し、魚場が減少。河川環境の悪化により、アユが小さくなったり、漁獲量が減少するなど多大な被害を受けています。
できた長瀬さんは、「このような状況を放置しておくと、山も川も海もすべてがダメになってしまう。何ができるかを考えた時、自分たちでまずは行動すべきだ」との思いで立ち上がりました。それが、平成12年、北川漁協が環境保全活動のために設立した「水を守る森を残そうかい」です。
同会の中心となる活動の一つとして「雑木林の保護」があげられます。これは、北川漁協が、北川流域の樹齢30年以上の雑木林を地権者から30年間借り受け、「水源の森」として管理するというものです。また、長瀬組合長は「植樹活動も大切ですが、一度伐採した木は育つまでに最低30年を要します。その間は、森としての機能が失われ、河川環境はさらに悪化します。それならば、伐採せずに保存しておいたほうがはるかに良いため、雑木林の保護に取り組みました」と話します。
現在、漁協が借り受けた面積は約380haにもなります。一漁協が行っていることとしては、異例の数字です。
独自のアイデアで川・自然を守る取り組みを進めている北川漁協。森林保全の面積500haを目指していますが「川や自然を守るためには、皆さんが川に目を向けていただくことが、一番効果があります。子どもたちが魚釣りがしたくなる、泳ぎに行きたくなるような川を残していくためにも、活動の輪を広げ、自分たちの生活の中に緑を取り込んでいく活動をしていきたい」と川や自然環境保護への思いを語りました。
300年以上の歴史がある延岡市の伝統「鮎やな」。
やなの架設数が減り、自然環境の変化によるアユの漁獲量減少が続いています。
存亡の危機に立たされた伝統文化を守るべく、アユ資源を守る取り組みや新たな「鮎やな」を目指し、官民ともに保存に向けた取り組みが始まっています。
川に丸太を組むなどしてアユを捕獲する伝統的な漁法である「鮎やな」。
やなを作るには少なくとも300万円以上が必要であるため、利用者数が伸びないと、やな造りが難しくなります。
平成18年まで3カ所に架かっていたやなは、平成21年から1カ所。利用者数(推定)は、平成18年が2.73万人、同19年が1.85万人、同20年が1.9万人、同21年は約1万人となっており、減少が続いています。
昨年9月、「鮎やな」の関係者や有識者が中心となり「これからの鮎やなを考える会」が設立され、対策が協議されてきました。
今年2月、同会は「伝統鮎やな保存会の設立」、「やなの架設費用一部補助」、「伝統鮎やな憲章」制定など「鮎やな」の存続を求める答申を首藤市長に提出しました。
その結果、今年の「鮎やな」は、専門知識を持った架設者による、古き良き時代のやなが再現されています。
伝統の「鮎やな」を守るためには、アユの漁獲量が一定水準以上に保たれていることが前提となります。
延岡市の各漁協は、アユ資源を守るために、毎年、五ヶ瀬川や祝子川、北川、各本支流に種苗(稚魚)の放流を行っています。
平成元年に2.3トンであった放流量は、同5年には約5トン、同10年には約6.8トン、ピーク時の平成17年には約9.6トンを放流しています。
また、放流にとどまらず、各漁協は、河川の清掃などを定期的に行っています。先にお伝えした北川漁協のように、独自に自然保護の取り組みを進めている漁協もあり、資源増加に向けた取り組みを進めています。
市でも、岩熊井堰におけるアユの遡上調査の実施やアユの保護水面の設定、昨年度からは、土地改良区の協力のもと、岩熊井堰の可動堰を倒して中央魚道の水流の速さを弱めるなどの対策をとっています。
伝統文化にとどまらず、秋の風物詩として、重要な観光資源でもある「鮎やな」を保存するために、市は、鮎やな架設および観光宣伝に対し、補助金を交付する予定です。
補助金の対象となる事業は、延岡市伝統鮎やな憲章を遵守する「伝統鮎やな保存会」に加入する者が行う事業です。
補助額は、架設費が2分の1以内で100万円が限度。やな全体の宣伝費は50万円が限度となり、22年度、350万円の予算を計上しています。
延岡の秋の風物詩は「鮎やな」と話す人も多いと思います。300年以上続いている伝統を絶やさないためには、自然環境の保護を含め、皆で一緒に守る努力が必要です。
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